送電線の向こうから オファー : もと原発所長の回想記

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この本に価値があると思った理由の一つは、あくまでも自分史として描かれている点。 原子力関係者が書く回顧録は、お堅い職業ということを割り引いても、ある種の堅さを感じます。機密事項、政治面等色々制約があるところを無理に会社や国家の使命感に嵌めている点が目に付くのです。それは、そういった回顧録のかなりが電力新報(現エネルギーフォーラム)の出版であったり、勤め先の内報に連載した物をベースとしていたりするからでしょう。似たようなことは高木仁三郎氏や蓮池透氏も指摘していますので。しかし、著者の場合、役員など政治的な仕事に染まることも無く、現役を引いてから書き始めていること、電力社員の他に解説者と言う草鞋を履いていること、原発立ち上げから関与した草創期の方であることからか、そのような堅さを感じず、誰かに言われるまでも無く閉まっておくべき話を選んだ上で自由に書いているように思われます。 さて一旦は兵士として出征した著者は、復員後就職してから電気主任技術者に目をつけ、当資格を取得することで勉学に向いているとはとても言えない戦中の速成教育の穴を埋めることになります。私も当資格のことは多少存じてますが、電気工事や電力関係者ではないと実感の沸かない分野も出題範囲になっているので大変ですね。それに比較すると著者の職場は電気試験班→回転機巻線班でかつ同資格の受験仲間もいたそうですので、職場的には恵まれています。また、当時の電検の雰囲気も良く伝わってきます。口頭試問のあった1種受験に当たり1科目当たり参考書3冊、過去問20年分集めて反復し、1番でパスされたそうですが、このやり方は今でも参考になる部分があります。また、嬉しさを爆発させている部分に嫌味が全くない。 さて中盤で著者は四国電力に転職し、発電所の建設、運転に従事していきます。役職の違いから目線が自然に変わっていき、技術的な打ち明け話、仕事での苦労話も飽きさせず。キャリア後半では伊方原発に関与しますが、原発の技術の素晴らしさを訴える内容ではなく、あくまで現場の上級技術職としてどのように新規の課題を消化していったか、人を集めたか、検査見積の交渉など、こういう見方もあるのかと思わせる部分に溢れた、他の回顧録や有名どころの伝記では中々味わい難い実感があり、一般的な仕事にも応用が効きそうです。

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